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神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)185号 判決

原告

森昌子

原告

森快吾

原告

森貞昭

原告

森勝志

原告

西山優子

原告ら訴訟代理人弁護士

西村文茂

被告

合名会社精乳社牧場

右代表者代表社員

森国夫

右訴訟代理人弁護士

藤原忠

明石博隆

主文

一  被告は、原告森昌子、同森貞昭、同森勝志、同西山優子に対し、各金二〇〇〇万円づつ、原告森快吾に対し金一〇〇〇万円および右各金員に対する昭和五八年二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  主文一、二項同旨の判決

2  仮執行宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

原告森昌子、同森快吾、同森貞昭、同西山優子は、もと被告会社の社員であつたものである。

原告森勝志は、もと被告会社の社員であつた亡森勝の長男で、相続により同人の被告会社に対する権利義務関係一切を承継したものである。

被告会社は、原告森昌子らの父亡森貞二が中心となつて、昭和二四年四月四日に、家族らを社員とし、乳牛の飼育および搾乳、牛乳等の処理加工販売等を目的として設立された合名会社である。

2  各社員の出資

被告会社の出資は、合計金一三〇万円で、各社員の出資は、次のとおりであつた。

原告昌子 金二〇万円

勝 金二〇万円

原告快吾 金一〇万円

同 貞昭 金二〇万円

同 優子 金二〇万円

国夫 金二〇万円

綾子 金二〇万円

3  原告らの退社

(一) 被告会社は、元来乳牛の飼育、搾乳を中心に事業を進めていたが、須磨の市街地で乳牛の飼育を行なうことは、昭和四〇年頃から次第に困難となり、亡森勝と原告昌子夫妻は、牛乳の販売を、森国夫、綾子夫婦は、駐車場の管理をそれぞれ主として行なうようになつた。

昌子夫婦と綾子夫婦は、きようだいではあるが不仲であるだけでなく、父の貞二の死後は合名会社とは名ばかりで実質は、別個に事業を行なつている状態が続いていた。

そこで、原告昌子らは、被告会社を解散してその実質に基いて別個に事業を進めることなども協議しようとしたが、被告代表者らが反対し、解散には至らなかつた。

昭和五六年四月七日、原告昌子の夫である森勝が急死した後も、事態は好転するどころか、両家族の不和対立は一層激しくなり、被告会社を解散するための協議など全く不可能となつた。また、原告昌子のおじである原告快吾、弟の原告貞昭、妹の原告優子らも綾子夫婦と円満に話合うことは不可能となつた。

かくては、被告会社を解散することもできず、また、合名会社の社員としてとどまることに何の意味もないので、原告昌子、同快吾、同貞昭、同優子らは、昭和五七年九月二九日到達の書面をもつて、被告会社に対し、商法八四条二項に基き、被告会社から退社する旨通知した。右原告らは、右退社通知の到達と同時に、被告会社を退社した。

(二) 亡森勝は、昭和五六年四月七日死亡し、商法八五条三号に基き被告会社を退社した。

同人の長男である原告勝志は、同人の被告会社に対する権利義務関係の一切を承継したが、被告会社に新たに入社しなかつた。

4  各社員の払戻を受けるべき持分

(一) 財産評価

(イ) 持分払戻は、金銭によつて請求すべきところ、その基礎となる財産の評価は、各社員の退社時の会社所有財産の時価によるべきものとされている。

(ロ) 会社の主要な財産である土地のうち、会社ないし社員の利用部分はいわゆる更地としての時価をもつて評価し、第三者の建物所有のための貸地については、更地価額から借地権価額を控除したいわゆる底地価額をもつて評価し、借地部分については、借地権価額をもつて評価すべきである。

(ハ) その余の流動資産、固定資産は、最も近い時点の被告会社作成の貸借対照表、財産目録に示された価額によるべきである。また、負債も貸借対照表の金額によることとする。

(ニ) そうすると結局持分払戻のための財産の評価は、最も近い決算期の貸借対照表の資産の部のうち、土地の部分を時価によつて再評価するため土地の時価を簿価と差しかえ、資産の合計額を明らかにし、これから、負債の部に計上された負債合計額を控除して得られた金額が、持分評価の基礎となる財産の価額である。

(二) 持分の算出

合名会社の社内関係としては、損益は、出資額に応じて分配されるのが通常であり、本件においてもこれに反する特段の合意はないから、前項の方法によつて算出された退社時の純資産に各社員の出資割合を乗ずれば、各社員が払戻を受ける持分の金額が算出される。

(三) 原告昌子らの退社時(昭和五七年九月二九日)の被告会社の財産および原告らの払戻を受けるべき持分

右時点に最も近い昭和五七年三月三一日現在の貸借対照表によれば、資産は、一四六三万一四一七円、負債は、一〇七七万七〇〇一円である。

右資産中には、土地が一五五万円にて計上されているが、昭和五七年九月二九日現在の所有土地の時価および借地権の時価は合計三億二一五三万六〇〇〇円であるから、これを前記簿価一五五万円と差換えると、結局資産は合計三億三四六一万七四一七円となり、負債の一〇七七万七〇〇一円を控除すると純資産は、三億二三八四万〇四一六円となる。

原告昌子、同貞昭、同優子の出資割合は各一三〇分の二〇であるから持分は各四九八二万一六〇二円となる。

原告快吾、の出資割合は、一三〇分の一〇であるから、持分は、二四九一万〇八〇一円となる。

(四) 亡森勝退社時(昭和五六年四月七日)の被告会社の財産および同人の払戻を受けるべき持分

最も近い時点である昭和五六年三月三一日現在の貸借対照表によれば被告会社の資産は、一五二四万六二六三円、負債は、一九六二万七一五〇円であるが、右資産の中には、所有土地および借地の賃借権が含まれていないので、昭和五六年四月七日現在の所有地の時価および借地権の時価である二億九五〇四万円を加算しなければならない。

そうすると、被告会社の資産は、三億一〇二八万六二六三円となり、直近の負債である一九六二万七一五〇円を控除すると右時点の純資産は二億九〇六五万九一一三円となる。

原告勝志が相続した亡森勝の持分は前記のとおり一三〇分の二〇であるから、四四七一万六七八六円となる。前記のとおり同人の持分は、原告勝志が相続により承継しているものである。

5  結論

各原告が、被告会社に対し払戻を請求しうる金額は、前記のとおりであるが、本訴においては、とりあえずその内金として、原告昌子、同貞昭、同優子、同勝志は、各金二〇〇〇万円、同快吾は、金一〇〇〇万円を請求する。

よつて、原告は、請求の趣旨記載の判決(訴状送達の翌日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を含む)を求めて本訴におよんだ次第である。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因第1項のうち、原告森勝志が訴外森勝の被告会社に対する権利義務一切を承継した事実は知らないが、その余の事実は認める。

同第2項記載の事実は認める。

2  請求原因第3項(一)のうち、被告会社が元来乳牛の飼育、搾乳を中心に事業を進めていたこと、須磨の市街地において乳牛の飼育を行なうことは、昭和四〇年頃から次第に困難となつたこと、昌子夫婦と綾子夫婦とは不仲であることが多かつたこと、昭和五六年四月七日原告森昌子の夫である森勝が死亡したこと、及び、原告森昌子、同森快吾、同森貞昭、同西山優子が昭和五七年九月二九日到達の書面を以て、被告会社に対し商法第八四条二項に基き、被告会社から退社する旨通知した事実は認めるが、その余の事実は争う。

同(二)のうち、訴外森勝が昭和五六年四月七日死亡し、商法第八五条三号により被告会社を退社した事実は認めるが、その余の事実は争う。

3  請求原因第4項における原告の財産評価の基準、並びに、原告等が払戻を受けるべき持分についての主張事実は、いずれも争う。

なかんずく、会社財産に属する土地について、これをいわゆる更地としての時価により評価することは、全く不当である。

けだし、社員が退社しても企業自体は解体せず存続し、営業活動を維持継続してゆかなければならないものであるから、企業の組織財産について個別的処分価格による評価をなし、これによつて退社社員に払戻す持分の金額を決定することは、直ちに企業自体を解体し消滅させることとなるからである。

これについては、中小企業等協同組合法にもとずく協同組合の脱退組合員に対する持分払戻しの基礎となる財産の評価方法について、昭和四四年一二月一一日の最高裁判決(民集二三・一二・二四四七)が、「一般に協同組合の組合員が組合から脱退した場合における持分計算の基礎となる組合財産の評価は、組合の損益計算の目的で作成されたいわゆる帳簿価格によるべきものではなく、協同組合としての事業の継続を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額を標準とすべきものと解するのが相当である」と判示していることに注目しなければならない。

三  被告の原告森昌子に対する主張(相殺)

原告森昌子は、昭和四四年三月から被告会社の牛乳販売に関する事務を担当しており、毎月一三日までに集金した販売代金の中から、仕入先である訴外雪印乳業株式会社神戸支店に対し支払をしていたが、昭和五九年一月一二日原告森快吾より金三二六、〇八六円、同月一三日被告代表者本人森国夫より金四八九、六八四円、同月一七日訴外森収一より金一、三九三、〇六二円をそれぞれ集金したまま右訴外会社へ支払をしないので、同月二七日内容証明郵便により、被告代理人から原告森昌子に対し、右集金した合計金二、二〇八、八三二円を三日以内に引渡すよう通知し、右郵便は同月二八日右原告に到達したが、同人は右金員の引渡しをしないから、被告はやむを得ず同月三一日右訴外会社に対し仕入代金二、一七二、〇〇四円を支払つた。

よつて、原告森昌子は、被告のために集金した前記金員を横領することにより、被告に同額の損害を与えたので、被告は同人に対し金二、二〇八、八三二円の不法行為にもとずく損害賠償請求債権を有するから、被告の同人に対する債務が認められたときは、右債権の範囲内で対等額を以て相殺する。

四  被告の右主張に対する原告森昌子の認否並びに主張(再抗弁)

1  原告森昌子が、昭和五九年一月集金分を雪印乳業株式会社に支払わなかつたこと、および被告代理人の昭和五九年一月二七日付内容証明郵便が到達したことは認めるが、その余は否認する。

なお、集金額(二二〇万八八三二円)と、支払額(二一七万二〇〇〇円)との差額三万六八三二円は、原告昌子の手数料であり、この金額まで相殺するのは不当である。

原告昌子が、右二一七万二〇〇〇円を支払わなかつたのは原告の夫亡森勝の被告会社への貸付金二一七万七〇八九円、および右勝の父成本安龍の貸付金三〇万円の返済を再三要求していたが、その返還が受けられないので、右勝の貸付金と相殺する意思であつたのであり、横領とされるような筋合のものではない。

2  被告主張の不法行為に基づく損害賠償請求権二二〇万八八三二円と原告昌子の亡夫森勝の被告会社への貸付金債権二一七万七〇八九円(同人が昭和四三年頃被告会社の資金繰りが苦しかつたとき、同社に利息の定めなく資金繰りがつき次第遅滞なく返済するとの約定で貸付けたもの)とを対当額にて相殺する。

3  仮に、右相殺が認められないとしても、原告昌子の持分は、訴状記載のとおり四九八二万一六〇二円であり、本訴は、その内金として二〇〇〇万円を請求しているのであるから、被告主張の不法行為債権と相殺されても、何ら請求額には影響がない。

五  前項2に対する被告の認否

争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一被告会社は、原告森昌子らの父亡森貞二が中心となつて、昭和二四年四月四日、家族らを社員とし、乳牛の飼育および搾乳、牛乳等の処理加工販売等を目的として設立された合名会社であること、被告会社の出資は合計一三〇万円で、各社員の出資は、原告昌子、同貞昭、同優子、森勝、森国夫、森綾子が各二〇万円、原告快吾が一〇万円であつたこと、被告会社は元来乳牛の飼育、搾乳を中心として事業を進めていたが、市街地にあるため、昭和四〇年ごろから乳牛の飼育を行なうことが困難となり、亡森勝と原告昌子夫婦は牛乳の販売を、森国夫、綾子夫婦は駐車場の管理をそれぞれ行なうようになつたこと、亡森勝は昭和五六年四月七日死亡し、商法八五条三号に基づき被告会社を退社したこと、また原告昌子、同快吾、同貞昭、同優子らは、昭和五七年九月二九日到達の書面をもつて被告会社に対し、商法八四条二項に基づき、被告会社から退社する旨通知したこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

原告森昌子本人尋問の結果(第一回)、被告代表者森国夫本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、1 原告勝志は、亡森勝の長男であつて、死亡によつて被告会社を退社した亡勝の持分払戻請求権等、同人の被告会社に対する権利義務関係の一切を相続により承継したこと、2 綾子と原告昌子とは姉妹であるが、従前から不仲であつたばかりでなく、父貞二が昭和三七年七月一二日死亡後は、被告会社は合名会社とは名ばかりの存在で実質は原告昌子夫婦において牛乳の販売を、綾子夫婦においては駐車場の管理という別個な事業が行われている状態が続いていたこと、そこで、原告昌子らは、そのころ被告会社代表者に対し被告会社を解散してそれぞれ別個な事業を進めることを提唱したが、被告代表者国夫、綾子夫婦はこれに反対し、解散には至らなかつたこと、原告昌子の夫である勝が昭和五六年四月七日死亡した後も、両家族の不和対立が益々激しくなり、原告昌子のおじである原告快吾、弟の原告貞昭、妹の原告優子も原告昌子に同調して被告代表者国夫、綾子らと対立するに至つていたことが認められ、それによれば、原告勝志は、昭和五六年四月七日死亡により被告会社を退社した勝の持分払戻請求権を相続取得したものであり、またその余の原告らは、被告会社代表者森国夫らと対立感情があつてすでに信頼関係が失われているものであるから、昭和五七年九月二九日被告会社に対してなした退社はやむ得ない事由があつたというべく、同日限り被告会社に対し、持分払戻請求権を有するものというべきである。

二ところで、合名会社の社員が退社したときの持分の計算は、退社当時の会社財産の状況に従つてこれをなすべく(商法六八条、民法六八一条一項、なお例外として商法八七条、六八条、民法六八一条三項の規定があるが、本件の場合その適用はない)、右会社財産の評価は、いわゆる帳簿価格によるべきではなく、会社の事業の継続を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額を標準とすべきものであつて(最高裁判所昭和四四年一二月一一日第一小法廷判決、民集二三巻一二号二四四七頁参照)、時価以下の過少評価がなされるべきではない。右時価というのはその時の一般市場における物品の取引価格をいい、右取引価格を算出することが困難あるいは不可能なときは当該物品の状況に応じた公正妥当な評価方法による経済価格を指すものである。そして、右持分計算の基礎となる財産評価は、現実に物品を売却するわけでもなく、しかも物品を売却することになつてもその課税と直接関係のない事項であるから、たとえ会社が退社々員に対する持分払戻しのため財産の一部または全部を売却処分せざるを得ない状況におかれていたとしても、課税額を考慮することの必要がないものというべきである。

以上の事実を前提に、本件における原告らの持分計算を検討してみる。

1  被告会社所有地及び賃借地の評価

(一)  〈証拠〉を総合すれば、(1) 昭和五六年四月七日当時及び同五七年九月二九日当時における被告会社の不動産利用関係は、別紙物件形状と利用状況図記載のとおりであること(以下の符号は同図面表示のものである)、(2)  土地は神戸市須磨区須磨寺一丁目九九番一宅地三三四・三三平方メートル、土地同所九九番二宅地四九三・一四平方メートル、土地は同所九九番三宅地一六六・〇八平方メートル、土地は同所九九番四宅地二二六・二六平方メートルに該当し、以上の各土地はいずれも被告会社の所有であるが、被告会社は右各土地のうち土地を木田、佐藤らに建物所有の目的で賃貸し、木田らは同地上にの建物を所有していること、なおの各土地には被告会社所有の建物が存在し、原告らの一部や森国夫らが使用しているが、右建物は古く経済的価値がないものである、(3)  土地は前同所九七番地宅地一〇一二・〇九平方メートル、土地は同所九八番宅地二二三・六三平方メートルであつて、右の各土地は桜寿院が所有し被告会社が桜寿院から賃借している土地であり、右土地のうち部分は被告会社が桜寿院の承諾を得て建物を所有して同建物に原告昌子が居住し、部分は被告会社が桜寿院の承諾を得て合名会社須磨マンションに転貸し、同マンションが同上に鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の建物を建てていること、しかし、右各建物の敷地以外の部分は、被告会社が経営する貸ガレージであつて、被告会社は桜寿院との間で右土地につき建物の所有を目的とする賃借契約を締結していない、以上の事実が認められる。

(二)  右事実によれば、右各土地の財産評価は、の各土地についてはいわゆる更地としての時価、土地については更地価額から借地権価額を控除したいわゆる底地価格、の土地については借地権価額、の土地を除くの土地については収益還元価額(ガレージとしての収益を利率で割り資本還元して評価した価額)により、かつそれらを一括してプラスアルファーしたものとするのが相当である。

右の土地について収益還元価額の方法を相当としたのは、被告会社と桜寿院との間に同土地について建物所有を目的とする賃貸借契約が締結されておらず、このような賃借権は借地法上の借地権と異なり、存続期間や譲渡性についての法的な保護が弱く、したがつて経済取引の対象とはなり難く借地権価額で評価することが相当でないからである。なお、〈証拠〉によれば、右の土地にはかつて牛舎が建てられていたものであり、また被告会社は桜寿院に対し承諾料を支払つて建物の建築、土地の転貸の各承諾を得ていることが認められるが、そうであるからといつて、現在及び将来においての土地につき桜寿院から、建物所有を目的とする借地契約変更の承諾を得られることの法的な保障がないものである。

(三)(1)  〈証拠〉によれば、の各土地の更地価格、土地の底地価額の合計は、昭和五六年四月七日当時一億七一九五万円、同五七年九月二九日当時一億九六四四万円であることが認められる。

〈証拠〉は、いずれも、右各土地の時価を算定するにつき、路線価によつているものであることがそれ自体から明らかである。しかし、いわゆる路線価は、一般の土地売買価格よりもかなり低いものであることは公知の事実であり、〈証拠〉と、高井鑑定とを比較した場合、右各土地の時価を公示価、取引事例等によつて算出した高井鑑定の方がはるかに適正であると思われ、右〈証拠〉を採用しない。

(2)  次に、乙第五号証、証人坂井吉富の証言によれば、の各土地の借地権価額合計は、昭和五六年三月当時九三七万四二八四円(四一七万六〇〇〇円に五一九万八二八四円を加えたもの)、同五七年三月当時一一三一万三七九二円(五〇四万円に六二七万三七九二円を加えたもの)、の各土地の収益還元価額は、昭和五六年三月当時七三〇万円、同五七年四月当時一〇五一万七〇〇〇円であることが認められる。

右認定に反する高井鑑定関係部分は、土地部分はさておき、土地が借地法上の借地権がない土地であるにもかかわらず、同借地権あるいは建築承諾料を条件とする同借地権を前提に、借地権価額を算出した高額なものであり、右の土地部分を含めて採用できない。

(四)  右(三)の(1)(2)によれば、被告会社の所有地及び賃借地の時価は、結局、昭和五六年四月七日当時一億八八六二万四二八四円、同五七年九月二九日当時二億一八二七万〇七九二円であつたと認められる(ただし、右各土地を一括評価した場合の、前記プラスアルファを度外視することとする)。

2  持分計算

(一)  原告勝志について

〈証拠〉によれば、亡勝の退社時に最も近い昭和五六年三月三一日現在の貸借対照表には、被告会社の資産一五二四万六二六三円、負債一九六二万七一五〇円であり、右資産中には、被告会社の前記所有地、賃借地の価額が含まれていないことが認められる。

そこで、右認定の被告会社資産一五二四万六二六三円に前記昭和五六年四月七日当時の所有地及び賃借地の時価一億八八六二万四二八四円を加算し、次に負債一九六二万七一五〇円を控除すれば、被告会社の右時点における純資産は一億八四二四万三三九七円となる。

原告勝志が相続承継した亡勝の持分は一三〇分の二〇であるから、前記純資産に右持分を乗じて得た二八三四万五一三八円について同原告は被告会社に対し、持分払戻請求権を有することとなり、同原告の右内金二〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和五八年二月二六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は正当として認容すべきである。

(二)  原告昌子、同貞昭、同優子、同快吾について

〈証拠〉によれば、右原告らの退社時に近い昭和五七年三月三一日現在の貸借対照表には、被告会社の資産は一四六二万一四一七円、負債一〇七七万七〇〇一円であり、右資産中には土地が一五五万円にて計上されていることが認められる。

同年九月二九日当時の被告会社所有地及び賃借地の時価は前記のとおり二億一八二七万〇七九二円であるから、これを右帳簿価額一五五万円と差換えれば、資産は二億一八二七万〇七九二円となり、同金額から負債一〇七七万七〇〇一円を控除すれば、純資産は二億二〇五七万五二〇八円となる。

原告昌子、同貞昭、同優子の出資割合は各一三〇分の二〇であるから、前記純資産に右持分を乗ずると、各三三九三万四六四七円となる。

そうすると、原告昌子はさておき、原告貞昭、同優子が被告会社に対し、右内金として各二〇〇〇万円及びこれに対する前記昭和五八年二月二六日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める請求は正当として認容すべきである。

原告快吾の出資割合は一三〇分の一〇であるから、前記純資産に右持分を乗ずると一六九六万七三二三円となる。

そうすると、同原告の被告会社に対し、右内金として一〇〇〇万円及びこれに対する前記昭和五八年二月二六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求も正当として認容すべきである。

三そこで被告の原告昌子に対する相殺の抗弁について判断する。

原告昌子が被告会社の雪印乳業株式会社に対する昭和五九年一月分の牛乳販売代金中二二〇万八八三二円を他から集金しながら、雪印乳業に支払わなかつたことは当事者間に争いがない。被告代表者森国夫本人尋問の結果によれば、原告昌子が被告会社に対して勝手に、前記集金分を自己の用途に費消してしまつたため、被告会社はそのころ雪印乳業に対してほぼ同額の支払を余儀なくされ、同額の損害を被つたことが認められる。同原告主張の事由だけでは違法性は阻却されず、したがつて、原告昌子は昭和五九年一月当時被告に対し、二二〇万八八三二円の損害賠償債務を負担していたものというべきである。

原告昌子の再抗弁について検討してみるに、なるほど前記〈証拠〉には、勝の被告会社に対する貸付金として二一七万七〇八二円の記載がなされていることが認められるが、被告代表者森国夫本人の供述(右記載は勝が退職金といつて無理に押付けたものであるという)に照らし、右帳簿の記載だけでは右貸付金の存在を確認できないし、仮に貸付金があつたとしても、その権利を単独にて相続承継したのは原告勝志であつて同昌子でないことは、原告らの主張自体によつて明らかである。よつて、同原告の再抗弁は理由がない。

被告が昭和五九年五月二二日の第一〇回口頭弁論期日において、前示損害賠償債権二二〇万八八三二円をもつて原告昌子の本訴持分払戻債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは記録上明らかであり、右相殺の結果、同原告の前示持分払戻債権は三一七二万五八一五円となる。

しかし、原告昌子は本訴において右内金として二〇〇〇万円及びこれに対する前記昭和五八年二月二六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものであるから、結局、同原告の本訴請求も正当として認容すべきである。

四以上の次第で原告らの本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容することとする。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用し、仮執行宣言申立については事案に照らし相当でないと認めてこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官広岡 保)

別紙 物件形状と利用状況図

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